窯焼きパンと焼き菓子の店 酪 | くらす はたらく いちはら

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ふと、思い出して来てくれるお店でいい。窯焼きパンと焼き菓子の店 酪

紅葉や温泉街でも人気の養老渓谷で車を走らせると見えてくるパンの絵の看板。

「ん?パン屋さんかな?」そんなふうに思いながら進んだ先に、静かに佇む可愛らしい一軒家が、今回ご紹介する「窯焼きパンと焼き菓子の店 酪」

約30年前の移住後、パンづくりを一から学び、窯やお店を1年半かけてDIYしながら、オーナーの林哲平さん(はやし・てっぺいさん、以下、林さん)がスタートさせました。

そんな「窯焼きパンと焼き菓子の店 酪」は、土日のみのオープンにも関わらず、県内外問わず朝から多くのファンが訪れます。 2020.11.11.Kaori HOSOYA

住所千葉県市原市朝生原220-1
電話番号0436-96-1299
営業時間土日及び祝祭日11:00〜16:00(お盆休み、紅葉時は特別営業有り)
ウェブサイト https://htetsu0604.wixsite.com/website?fbclid=IwAR1M-qztLC4UVRr5NLkJSD61dMnPmq0lr1BAmQdno0O5zpbHStQ995-C_TE

移住前は都内で商社マンとして世界を飛び回っていた林さんですが、パンづくりを一から学び、スタートした「石窯パンと焼き菓子の店 酪」。

現在では林さんがパンを、弟さんがケーキを担当して、兄弟二人で切り盛りしているお店ですが、パンやケーキ以外にも、自家製ベーコンを使用した窯焼きピザなども人気で、天気のいい日は、季節ごとに変化する景色をガーデンテラスで楽しみながら食事もできます。

そんな林さん兄弟のつくるパンやケーキはファンも多く、土日のみのオープンにも関わらず、県内外問わず朝から多くの人が訪れ、あっという間に売り切れてしまう人気ぶりです。

一番人気のチーズケーキ。季節ごとにもさまざまなケーキが並び、行くたびにワクワクと楽しめます。
自家製のベーコンと生地でできた焼きたてのピザは人気で、ガーデンテラスで食べるのがおすすめ。
ガーデンもさることながら、そこから一面に広がる空と畑の緑が絵に描いたよう。

父のひと言で始めた、パン屋さんという仕事

林さん 移住してから、田舎で他に何もやることもなかったんで(笑)、両親と今まで話さなかったようなこともじっくり話ができたんです。

その時に父に『何か店をやれ。』と言われ、家族で何ができるか話し合いました。

『ものづくり(製造業)をしておくと結果がついてまわるし、つくるなら食べ物がいい。不景気になっても必ず人が必要とするから。』

父のその言葉で火がついて、パン屋をやることにしました。パンであれば、その場所で売れなくなっても、つくったものを持って移動販売ができると思ったんです。

その後、窯やお店を1年半かけて自分で作りながら、パン教室に通い、移住して3年後にお店をオープン。今では当たり前に聞くDIYですが、当時はとにかくお金がなかったので、ただただそうせざるを得なかったと、笑いながら振り返ります。

窯が出来上がるまで(インスタグラムより)。当時、石窯のプロの方に連絡をして設計図を送ってもらい、色々聞きながら、自分でつくりあげたのだそう。

林さん オープンした日のことをいまだに覚えています。

こんな場所だし、本当に人が来るかもわからなかったので、その時に唯一知り合いだった、新聞配達をしているご近所の方に、1000枚コピーした手書きのチラシをオープン直前に配ってもらったんです。

もちろん、パンはオープン前日に睡眠もとらず精一杯、可能な限りつくりました。でも初めてだから失敗も多いし、作れる量も少なくて。

そうしたら当日、お店の前にチラシを握りしめて30人くらい並んでるんですよ!パン屋が珍しかったんでしょうね(笑)。だけど、最初の10人くらいでパンがなくなっちゃって、待ってた人たちもみんな怒っちゃって、帰るまで頭下げっぱなしで。

本当に何もわかってなかったですね。『明日また頑張りますから。』って謝って、3日くらいは寝ずに毎日つくりました。10日目くらい以降、お客さんがめっきり減っちゃったんですけど(笑)。

人生の中で一番焦ったかもしれません。

写真左がDIYした窯。今では沢山のパンが並びますが、当時は数種類でスタートしたのだそう。

「そういえばあの店美味しかった。」そんなふうに思い出して来てくれるお店でいい。

うたい文句と言えるほどのものも、宣伝できるものも何もないと言う林さん。


林さん 看板を見て、どんな店だろう?と思いながら恐る恐る入ってみたら、『こんなところにパン屋さんがあるの?!』と驚いて買っていただき、そして、また養老渓谷に観光に来た時に、『そういえばさ。』って思い出してもらって、寄ってもらえたらいいんです。

それが僕らの自然体なんです。

優しい笑顔で、あくまでも「自慢できるものなんてないので」と謙虚な姿勢が印象的でしたが、田舎パンなどシンプルなパンには自分たちで掘った地下水を、菓子パンや惣菜のパンには近所の酪農家さんから買い付けているしぼりたての生乳だけを使用してつくっていると話される姿からは、パンづくりに対するしっかりとした想いやこだわりが感じられました。

ほっこりする看板は姪っ子が書いてくれた絵なのだそう。「可愛いでしょ?(笑)」
養老渓谷の地下水は昔から変わらず本当に美味しい。シンプルな田舎パンや、生乳の香りがふわりと香るさまざまな種類のパンなど、大人から子どもまで楽しめます。

移住してよかったのは、自然と共存していると感じられる暮らしがあること

平日は焼く日を決めて、移動販売や近くの直売所への卸しなど、さまざまな形での販売を行い、土日のみ店舗で販売する。そんなふうに自分の歳相応の働き方をできていて、今が一番楽しく働いているそうです。

林さん 毎朝、だいたい4時から5時くらいの間に仕込みをするんですが、特に春や秋の季節のいい頃は、裏の竹やぶから聴こえる風の音を感じたり、ホトトギスの声を聴きながら、

『無理しちゃいけないんだな。自然と共存してるな。』
と感じさせてもらえるんです。

パンを食べたお客様から、そんなふうに感じましたと言われることも多くて、感覚的にやっているけれど、そうやって思ってもらえるような味になっちゃうのかな。

自然体でいられるとストレスなく仕事ができるし、それはこの場所で働く良さですね。

お店を20年続けていて気づいたこと

自然との共存は良いことだけではなく、大変なこともあると林さんは言います。

林さん 台風や洪水で被害を受けるなど、ここ4年くらいは特に天候不順で大変だったんです。そんななか、みなさんが私たちのやっている商売をあてにしてくださる。父親が言ってくれていたことは、そこなんだなと学びました。

不安になると、自分たちの生活の基盤を求めようとしますよね。そこの基盤づくりの部分に携われたことは、私たちにとって幸せだなと感じます。

こんなことは20年前には気づかなかったですね。今更ながら父のおかげだと感じます。

今後は、演奏をしてみたい方が自由にガーデンテラスで演奏できるように場を提供をするなど、食と音楽をとおして地域の方が気軽に関われる場所をつくっていきたいのだそう。

ガーデンテラスで、お試しで開催された演奏会の様子。

養老渓谷へお出かけの際にふらっと立ち寄ったら、ガーデンテラスで焼きたてのピザやパン楽しみながら、生の音楽が流れている。そんな日が来るのはそう遠くないはず。

ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか?

特に田舎パンやチーズケーキなどは、すぐに売り切れてしまう場合もあるので、来店前に電話して確認するのがオススメです!