大鐘八重さん | くらす はたらく いちはら

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自分の感覚が、羅針盤大鐘八重さん

今とは違う土地へ引っ越して、そこでの生活をつくっていく。そんな想像にワクワクしつつ、新しい場所で人間関係を築けるの?自分にできることがあるの?と、不安や疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。

そんな方にご紹介したいのが、長野県からの移住者でありながら、自分のことを「もう牛久(南いちはらの町)の人間だと思っている」と笑う大鐘八重さん(おおがね・やえさん、以下、八重さん)

押し花アーティスト」として自分なりの表現を追求しながら、地域にとけこみ、その場所ならではの良さを活かしながらさまざまな活動をする八重さんの歩みは、移住後の生活を思い描くヒントになるかもしれません。
取材日 2021.09.28/文 Mizuno Atsumi

大鐘八重さん

八重さんが南いちはらへ引っ越してきたのは、今から8年ほど前。結婚を機に、長野から移住してきました。今でこそ、南いちはらで活発に活動をする1人として知られている八重さんですが、移住した当初の2年ほどはお子さんが産まれたこともあり、家で過ごしていることが多かったんだそう。

そんな八重さんが地域とかかわるきっかけになったのは、たまたま友人に誘われて出かけた内田未来楽校の親子向けイベントでした。

八重さん 蛍を見にいく散歩のイベントに参加したのが最初だったな。

毎月一回、内田未来楽校でイベントがあるんです。私はもともとクラフトが好きだったからマルシェをやりたいと思ってて。花をテーマにしたイベントを企画させてもらったりしていたら少しずつ地域の知り合いが増えていきました。

取り壊しの危機にあった木造校舎を地域の方が買い取り、子どもから大人まで楽しめるイベントや、野菜の無人販売を行ったりしています。

そんなふうに知り合いが増えていくなかで出会ったのが、内田未来楽校から車で5分ほどの距離にある牛久商店街に店舗を構える深山文具店の深山さん。牛久商店街を盛り上げようと昔から活動を続けている深山さんとつながったことで、毎月第二日曜日に上総牛久駅前で行われる「うしくにぎわいマーケット」を立ち上げるなど、活動の幅が広がっていきました。

商店街を目にしたとき、「ここを残したい」と思った八重さんと、深山さんを中心として 町を盛り上げようと活動する地元の方々が融合して生まれた月一回のマーケット。

もともとは、出店者や来場者も市外を含め、より多くの人を呼び込むことを目指していた「うしくにぎわいマーケット」。ですが、新型コロナウィルスの広がりにより、出店者を牛久商店街の店舗中心にしぼり、来場者も近隣地域に住む方をターゲットに方針転換。

商店街のお店同士がコラボした商品や、地域の商店街ならではの素朴な温かみがここならではの価値となり、予想外にも来場者数が増えました。その結果、イベントの開催時間前からお客さんが並び、1時間程度で商品が全て売り切れてしまうようになったそう。

参加者みんなが手作りでつくりあげているマーケットの雰囲気が、手書きのPOPからも感じられます。

また八重さんは、マーケット以外にも、「牛久商店街をぷらっと歩いてお買い物しよう」、略して「うしぷら」の活動として、商店街を歩くミニツアーの開催や、SNSでの商店街の発信などにも取り組んでいます。

八重さん 商店街には開いているのかどうかわかりづらいお店もたくさんあって、初めて訪れる人はなかなか入りづらい。

でも商店街には、商店街の良さがあるんですよね。たとえば、小学生の頃からずっとノートを買いに行っているお店の人が、子どもたちの成長を見てくれたり、その場で魚をさばいてくれたり、コロッケを揚げてくれたり、生活に密着した体験をできるのが商店街の大きな魅力だと思っていて。

だから、まず一歩お店に入って体験してほしい。「うしくにぎわいマーケット」や、「うしぷら」は、そのための仕掛けづくり。商店街ならではの温かさを残していきたいなって、勝手によそものが活動しています(笑)

うしぷらのインスタグラム。どこか懐かしい風景の数々にワクワクします。

そんなふうに地域にとけこみながら活動を続けてきましたが、最近は、アーティストとしての道も広げていきたいと考え、表現の活動にも力を入れている八重さん。

もともと自分でもクラフトをつくったり、シーグラスと押し花を組み合わせた作品をつくったりしていましたが、ピアニストの真麻さんから、一緒に何かできないかと声をかけてもらったのをきっかけに、草花と光、そしてピアノを融合させたアートを生み出しました。

身近に生えている草花を摘んで、ピアノの音を聴きながら、そのときの心のままに光の中に並べたり、散りばめたり、崩したり。思わずスッと見入ってしまう、幻想的な空気が広がります。

自然の中で育った草花の個性が魅力的だと語る八重さん。全部が綺麗なものではなくても、枯れたものや、色が落ちているものも味として、その魅力を引き出しながらアートをつくり上げています。

八重さん このアートは、初めはパフォーマンスだと思ってやっていたけれど、最近は、人に見せるということではなく、自分との対話の時間だと思っています。

だから、アートを見にきてくれた人も、見るっていうよりは、ヨガをやってもらっても、寝てもらってもいい。私のアートがつくり出す空間にいることで、気持ちが湧き上がってきて、自分と向き合ったり、自分を感じる時間にしてもらいたいなって。

両親が音楽の先生で、音楽の中で育った自分が、音楽と融合させたアートをつくっているというのも、不思議な巡り合わせだと笑う八重さん。そんな自分なりの表現と、これまで活動を続けてきた地域をつなげたいと考え、地域のなかで自分が好きな場所を借りてアートの撮影をし、その映像を発信する取り組みも始めています。

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八重さん 表現の活動もそうなんだけど、『これは楽しいからやる!』という感覚だけで動いていることが、自分ではずっとダメだと思っていて、それがコンプレックスだったんです。

でも、人に相談しているうちに、『感覚でいいじゃん』って吹っ切れちゃったら、色々やりたいことが増えちゃって(笑)

そんな私を助けてくれる人にも恵まれているし、こうやって取材も来てくれる。行き詰まることもあるけど、結果、楽しい方向にいくし、いい方向にいく。感覚を大切にすることって、私にはめっちゃ大事だと実感しています。

自分が楽しそう、好きだと感じる場所や人とかかわり続けるうちに、いつの間にか地域にとけこみ、居場所を得ていた八重さん。「地域に馴染まなくちゃ!貢献しなくちゃ!」と気負いすぎず、肩の力をぬいて興味や関心のおもむくままに動いてみると、案外と世界は広がっていくのかもしれません。